本記事は2022年10月に取材した内容を基にしています。掲載当時の情報をお伝えしておりますが、一部の情報が古くなっている可能性があります。最新の状況や詳細については、関連情報をご確認ください。
諏訪地方全域を舞台としたトライアスロン大会「SUWAKO∞PEAKS」で活用されたM-Tracer。このデバイスを別分野にも転用できないだろうか。そんなアイデアから白羽の矢を立てたのが観光業だ。諏訪湖畔のRAKO華乃井ホテルとタッグを組み、M-Tracerを取り入れたオプショナルプランを実験的に展開した。そのプロセスから見えてきたものとは――。
【第1回】GPSを携えて湖畔を散策 数々のミッションに挑戦
GPSを携えて湖畔を散策 数々のミッションに挑戦
晩秋のある晴れた土曜日、RAKO華乃井ホテル。宿泊客が続々とチェックアウトしていく中、1組の家族がフロントに姿を現した。下諏訪町在住の小林香織さんと長女のさくらさん、長男の真人くんの3人(いずれも仮名)。M-Tracerを活用したフォトロゲイニング「諏ワンダーランド」に参加するためだ。
担当者から説明を受け、預かったデバイスをかばんの中に。これが歩いた軌跡をトラッキングすると同時に、SOSと転倒検知の機能が万が一の際にも役割を果たす。「いつでも助けを求めることができるので、安心できますね」と母親の香織さん。子どもたちは地図を片手に、意気揚々とホテルを出発していく。
この「諏ワンダーランド」は、諏訪湖畔を歩きながら12種類のミッションをこなす内容。難易度などによって獲得ポイントが異なる。「足漕ぎボートで初島を1周」「日時計の周りをひとまわり」など移動を伴うミッションについては、GPSデバイスの計測で帰還後に判定。あとはさまざまな対象物の写真を撮ったりしながらポイントを上積みしていく。制限時間は90分で、全てを回る必要はない。
歩いてすぐの諏訪湖畔は散策にうってつけ。歩道はタータンなどで整備されており、自転車と歩行者の通るルートもそれぞれ分けられている。子ども連れでも極めてリスクの少ないルートをのんびりと連れ歩くことができる。もちろん、ミッションコンプリートを目指して足早に消化していくのもいいだろう。この日は天候にも恵まれ、絶好の散策日和となった。
サクサク、サクサク――
歩道の落ち葉を踏みしめながら、小学1年生の真人くんが闊歩する。最も近いポイントはホテルから約750m、諏訪湖畔に展示されているSL。「思ったより距離、あるなあ」。途中でカモの群れに興味を引かれたり、橋の上から湖面をのぞいたり。マイペースに寄り道も楽しみながら、15分弱ほど歩いてポイントに到着した。
ミッションの紙を見ると、
「SL番号を足し算 ◯+◯+◯+◯+◯=」
という問題が書かれている。
「番号ってこれかな?」「他にも数字があるかもしれない。全部探してみよう」。車体のプレートに書かれている型番の数字を足して、小学4年生のさくらさんが答えを記入する。これは難易度の低いミッションのため、10ポイント。
さて次に――と思いきや、簡単にはいかない。真人くんがSLに首ったけ。乗り込んで記念撮影したり、蒸気機関のレバーをガチャガチャ動かしたり。自宅近所にある別のSLはレバーが動かないため、「楽しかった」という。ただ、石炭を投入する火室の扉は固定されていて開かない。「無限列車だとパカッと開いたのにね」。大ヒットアニメ映画のようにはいかなかった。
存分にSLを堪能し、再び出発。湖畔を西へと歩いていく。なだらかな芝生の空間が広がる石彫公園にほどなく至り、次のミッション。ここにはオブジェが点在している。
「石彫公園にヒツジ像は何匹いる?」
「四つ葉のクローバーを見つけよう」
ヒツジは数えればいいだけなので、比較的スムーズ。香織さんがカウントしていく。しかしクローバーは難しい。見つければ200ポイントと大きいが、そもそも晩秋にあまりクローバー自体が残っていない。南向きの斜面にひっそり群生しているのを見つけ、かき分けながら探していく。「衝撃の難易度…!!」と香織さん。5〜10分ほどチャレンジしたものの、結局お目当ての四つ葉は見つけられなかった。
ただ肝心の子どもたちは、ミッションを忘れてオブジェに夢中。点在している一つひとつに座ったり乗ったり、滑り台のようにしてみたり。真人くんは「岩、楽しい!」と満面の笑みだ。ミッションの進捗はさておき、主役の子どもたちが楽しければそれで十分だろう。
企画当初は不安だらけ 子どもたちの笑顔で確信に
そこからマイペースにいくつかのミッションをクリアし、最大(?)の難関に挑む時がきた。
バッタソフト。
スタート地点のホテルから約1.5km。諏訪湖観光汽船の売店で販売している「名物」だ。バニラのソフトクリームにイナゴの佃煮が無造作に刺さっている逸品で、圧倒的にフォトジェニック。これを食べれば50ポイントと設定されている。せっかくなのでチャレンジするが、香織さんは「たった50なの…?もう少しポイントがあってもいいのに」と苦笑する。
店員から渡されて、いざご対面。「これは…!!!」と絶句しながらも、おそるおそる口に運んでいく。香織さんも長野県出身で、イナゴの佃煮を食べた経験はあるという。しかしソフトクリームとのマリアージュは初体験。さくらさんもチャレンジし、「最初は甘くておいしかったけど、後から苦くなった…」と感想を話してくれた。衝撃のビジュアルを楽しむのもまた、思い出の一つになるかもしれない。