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【第2回】駅伝×M-Tracer の信州コラボ 新たに見えた可能性を探る|号砲が鳴った“新生・県縦” 熱戦に注目集まる

2022年11月28日

長野県は長距離走が盛んで、特に駅伝に対する熱は並々ならぬものがある。その中でも県内の一大イベントとして定着しているのが、今年で第72回目を迎える「長野県縦断駅伝競走大会」だ。県内の郡市対抗大会で、晩秋の信濃路を北から南に走り継ぐ風物詩。この大会に2022年から、M-Tracerが導入。どのような経緯と効果があったのか。信州に連なる駅伝の系譜とともに、デバイスがもたらす未来を展望していく。

号砲が鳴った“新生・県縦” 熱戦に注目集まる

2022年、11月20日。

午前8時。長野市南県町の信濃毎日新聞本社前を、10チームの第1区走者が一斉にスタートする。CATVの中継画面は、先頭集団を正面から捉える。第1区は女子区間の2.30km。6分台後半〜7分台後半と、短い区間のため大きな差はつかない。

続く2区は9.09km。徐々に10チームの差が開いていく。先頭を走るのは、トップでたすきを受けた全諏訪の遠藤優裕。上伊那の日野志朗が追随する。諏訪と上伊那。長野県の南信地域を構成するこのエリアは、とりわけ駅伝が伝統的に盛ん。CATVでのライブ中継を望んだのも、きっかけは諏訪のLCVと伊那ケーブルテレビジョンだった。

この大会、全諏訪は連覇を狙う布陣。全16区間・117.35kmを走り継いだ末のゴール地点は、地元・岡谷市役所だ。上伊那は一方、今回は地元区間を走らないコース。しかし過去の成績を見ると断トツの38回という優勝回数を誇る。この地域は箱根駅伝経験者を含め、さまざまなランナーを輩出している。

ここに割って入ろうとしていたのが長野市。第2区では吉岡斗真が区間賞の快走で3位まで押し上げ、第3区につなげた。ここから国道18号などを経て第4区、5区と続く。8.08kmの第6区で、2位に浮上していた全佐久の小林圭吾が全諏訪をかわして首位に浮上。その後も長野市、上伊那と区間ごとに先頭が入れ替わるデッドヒートとなった。

(長野市陸上競技協会提供)

終盤は長野市がリード。第12区(9.35km)で中村孝樹がトップに立つと、その後も先頭をキープする。第14区(8.49km)の児玉天晴が区間賞の快走を見せるなど後続も着実にたすきを繋ぎ、追いすがる2位の全佐久に32秒差となる6時間28分2秒でアンカー村澤智啓がゴールテープを切った。

「68回大会時の参加15チームは、今大会では合同チームを含めて10チームに縮小し、長野県縦断駅伝競走の魅力は減少してしまったと考えています。ただ一方で参加チームの競技力は均衡し、最終区間直前まで繰り上げスタートは2チームだけと、たすきが繋がりました。優勝チームと最下位のタイム差も17分となり、全16区間の中で6回も首位が入れ替わる、スリリングなレースに生まれ変わったと評価されています」

信濃毎日新聞社の有賀覚・事業局長は、大きな変革を経た今回の大会をそう総括する。その言葉通り、参加標準記録の新設とチームのエリア併合に伴い、参加のハードルが高まった側面は確かにあるかもしれない。ただその代わり、「見る」「支える」側にとっては、エキサイティングな観戦体験を得られるコンテンツとしてのビジョンが拓けた。

デッドヒートの県縦 生み出す新たな価値は

レースが熱を帯びれば、必然的に注目度も高まる。YouTubeでのライブ配信は当日だけで約18,000回の再生回数をマーク。2023年3月時点で約32,000回となった。「今どうなっているのかがリアルタイムでわかるのは、やはりすごいこと。本当に今回はテレビだけで使わせてもらって、少しもったいないというか申し訳ない気持ちもありました」。仕掛け人となったLCVの八幡聡・放送制作部部長はそう振り返る。

注目が集まる場所に何が生まれるか――。

その一つが、広告的な価値だ。

テレビ中継を前提とし、スポンサー企業名の露出が増えるようカメラワークを工夫。画面下部のテロップでスポンサー名も流した。選手のゼッケンは前後で別のスポンサーとなっており、両方が映るよう配慮も加えた。

「信濃毎日新聞社としても、ケーブルテレビさんと連携してスポンサーマーケティングの力を向上させなければ大会の継続は難しくなると考えています。ケーブルテレビさんやEPSONさんの最新の技術力によって大会の魅力を高め、県民から支持されるものにしていきたいと考えています」

信濃毎日新聞社の有賀局長はそう話す。箱根駅伝を筆頭に国内の駅伝大会は伝統的に新聞社が主催などで深く関わっているケースは多く、長野県に限らず県内を網羅する駅伝大会を県紙が行うことも。特に九州地方では盛んだが、中には長い歴史に幕を下ろした大会もある。

こうして駅伝の開催は人的、経済的に大きな運営リソースを要するからこそ、注目を集めて価値を高める必要性が生じる。その意味では、CATVのネットワークを駆使した中継とYouTube配信、それに伴うスポンサー露出機会の大幅増は、価値向上に寄与する。そこにM-Tracerがリアルタイムの位置情報を提供することにより、中継の画面に付加価値を創出した。

中継クルーのやりくりにも M-Tracerが活躍

さらにM-Tracerは、大会の中継にも大きな役割を果たした。11班に分けた中継クルーごとにデバイスを持ち、CATVの放送を統括する本部でリアルタイムの位置情報を把握したのだ。試験的に実施した2019年、実はクルーのやりくりに余白が少なかったという。しかも今回は、コースが変更になって前回のノウハウも生かせない。

そもそも公道で長い距離を移動する駅伝だからこそ、外的要因によって交通に不測の事態が起こるリスクは高い。自分たちが当事者でなくても、事故が起こって通行止になる可能性は常にあるし、その場合の迂回路が万全にあるほど山間部は交通が整備されていない。山間部で落石など自然由来のトラブルに見舞われる可能性だってある。

「不測のトラブルも含めて、何があるか読めないと思いました。そのため取材班を増やしてデバイスを持ってもらって、問題なく移動できているかどうか確認できるようにしました」とLCVの八幡部長。IP無線での連絡だった前回に比べて格段に効率がアップしたといい、「前回は中継が忙しくて確認も十分とは言えなかったんですが、今回は位置がわかるので安心できました」とうなずく。

出先のスタッフも、レースの状況を把握して万全の準備ができたという。カメラの電源を入れるタイミングを図るなど事前準備がスムーズ。これが中継におけるストレスの軽減にも直結したという。「中継は朝も早いので、メリハリをつけて少し休める時は休む――という形にもできたと思います」と八幡部長。中継の表側には出ないバックヤードの部分でも、M-Tracerが円滑なオペレーション実行に一役買った。

チームのたすきに縫い付けたデバイスもトラブルなく動作し、中継は成功を収めた。繰り上げスタートとなったチームはその時点で位置情報を消すけれども、それは想定のうち。実際にチーム関係者も中継画面の位置情報を参考にしていたといい、「チームの皆さんなどはもう、みんな見ていたと聞きました。やはり状況がわかってよかったということはすごく言われました」と納得の表情を浮かべる。

「信濃毎日新聞さんやEPSONをはじめ皆さんには本当に助けていただいて、かなりのインパクトがある良い中継をすることができました。今後もぜひ発展させていきたいです」

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