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【第2回】ツーリズム×M-Tracer の可能性|地元の民話を取り入れ コースに物語要素を付加

2022年11月12日

諏訪地方全域を舞台としたトライアスロン大会「SUWAKO∞PEAKS」で活用されたM-Tracer。このデバイスを別分野にも転用できないだろうか。そんなアイデアから白羽の矢を立てたのが観光業だ。諏訪湖畔のRAKO華乃井ホテルとタッグを組み、M-Tracerを取り入れたオプショナルプランを実験的に展開した。そのプロセスから見えてきたものとは――。

地元の民話を取り入れ コースに物語要素を付加

フォトロゲイニング「諏ワンダーランド」には、ファミリー向けの徒歩プラン「目指せ冒険王」のほか、小学校高学年〜中学生の子どもを持つ親子をターゲットにしたプランも存在する。「伝説の龍神を追え」と銘打ったパッケージで、自転車で諏訪湖1周の20kmをめぐる。所要時間は約3時間。これは元々、この地方に伝わるという民話をベースにしたものだ。

諏訪湖には、大きな大きな龍神さまがいらっしゃいました。

旧暦の10月、出雲で行われる全国の神さまの集まりに行くと、あまりにも大きかったので、頭は出雲でも、尾はまだ諏訪湖にあった。そんな姿を見た出雲の神が「そのような大きな体では、ここまで来るのもひと苦労であろう」とおっしゃいましたので、出雲に行かなくてもよくなったとか…。

こうして信濃では、龍神さまがいるので10月を『神在月(かみありづき)』と言うようになりました。

諏訪龍神プロジェクト」HPより引用

地元・諏訪地方の人々に広く親しまれているラーメンチェーン「テンホウフーズ」の大石壮太郎社長が立ち上げたプロジェクト。地元でもあまり知られていない「龍神さま」の伝説を掘り起こし、絵本を出版するなど普及に努めている。絵本には「信濃には神無月がない」「蒙古襲来」「泉小太郎伝説」「甲賀三郎物語り」と、龍神にまつわる4本の民話を掲載した。

これをRAKO華乃井ホテルの白鳥和美社長が知り、M-Tracerを活用したアドベンチャーツーリズムに取り入れようと考えた。

「その土地ならではの文化と伝統。そして体験型を踏まえたものがアドベンチャーツーリズムで、この商品が諏訪地域のアドベンチャーツーリズムのコンテンツの原点になるだろうと思っています」

白鳥社長はそう手応えを口にする。ただ単に諏訪湖を自転車で1周するだけでなく、地元の文化や伝統をバックボーンにした物語性を付加。実際に参加者からは前向きな反応が寄せられたという。

企画を担当した小平幸治次長は「思ったよりもお客さまは『チェックポイントをきちんと回ってこなきゃ』という目的意識を持つようで、そうすると余計に面白くなるみたいです」と話しつつ、「こういうコースをいくつも用意できれば、リピーター獲得にも繋がるかもしれません」と可能性を模索する。

この商品を販売して1組目の家族は、自転車プラン「伝説の龍神を追え」と徒歩プランを両方体験したという。白鳥和美社長は「フルコースを体験した後で感想を聞いたら、子どもたちは『難しかった』と言っていましたが、お母さまは『今までのどんな観光マップにも、諏訪大社や遊覧船やガラスの里、美術館などの情報しかないけど、新しい諏訪の発見ができて、しかもそれがとても楽しかった』と言ってくださいました」とうなずく。

さらに、徒歩プランよりも距離も時間も長いため、GPSデバイスが真価を発揮するのだ。

「ある親子のかたが到着した日に14時からサイクリングに行かれたんです。帰りの17時ごろにはもう暗くなる時間帯。でも帰ってこず、ログで現在地を確認したらまだホテルから遠い位置にいたんです。そこで電話をかけて無事を確認したり、あとどのくらいの時間で帰れるか――などの意思疎通が取れたりしました。非常に便利でした」

白鳥社長自身も日本体育大を卒業するまで陸上競技やダンスに打ち込んだ体育会系。「スポーツで街を元気にしたい――という思いが根底にあったのと同時に、いつも『諏訪ならではのものは何か』と自問自答していました。その中でトライアスロン大会が立ち上がりました。ならばスポーツツーリズムで諏訪を元気にするのはいいなと。住んでいる方たちも健康になってくれるような仕組みづくりもいいし、スポーツツーリズムが一つのキーワードになると思っていました」と話す。

セイコーエプソン、RAKO華乃井ホテルなどの担当者が集まって企画会議を重ねた。「会議で行き詰まって、沈黙が続く…というシーンが結構あったりしましたね。本当にそれくらい、『次に進むにはどうしたらいいんだろう?』とみんなで頭を悩ませました」と白鳥社長は振り返る。

行き詰まりかけていたタイミングで、あるメンバーがぽつりとつぶやいた。

「諏ワンダーランド」

そのワードが端緒となり、ファミリー向けのパッケージをどう練り上げていくかが動き出した。白鳥社長は「『諏ワンダーランド』という言葉から連想できるターゲットはファミリー層。そうするとターゲットはアスリートじゃないことが明確になって、はっきりターゲットがファミリー向けとアスリートに分かれたんです。あれが一つのキーポイントだったと思います」と声を弾ませる。

トライアスリート向けには、スワコエイトピークスのコース(の一部)をバイクとランに分けて追体験できる「Re:エイトピークス」を展開。そしてファミリー向けに「諏ワンダーランド」とターゲットを分けた商品を打ち出すことができた。

リアクションとしては「諏ワンダーランド」が圧倒的に多かったという。その一方でローンチした「RAKOスポーツコンシェルジュ」のウェブサイトは、アスリート向けのスマートなデザイン。ファミリー向けのフォトロゲイニングももちろんその中に落とし込まれているが、「アスリートやスポーツから走り始めたのでこういう見せ方になりましたが、ファミリーに寄せればもう少し集客があったかもしれません」と気付きも得た。

ただ、こうした企画のプロセスを踏むことで、得られたものは大きかったという。

白鳥社長は力説する。

「今回観光とテクノロジーがどう一緒になっていくんだろう?どんなことが生まれるんだろう?と、期待も不安もすごくありました。私たちは普段、新商品企画に際して観光業以外の業種の方々と触れる機会がほとんどありません。でも今回は全くの異業種でプロの方々と一緒にお仕事ができました。(セイコーエプソンの)プレゼンをうかがってもついていかれない部分が正直あったりもしましたが、その中で商品の作り方や物事の考え方など、すごく学んだことが多かったと思います」

RAKO華乃井ホテルが提供するサービスは何か。「部屋」と「食事」と「温泉」――という従来の価値観が、この商品によってアップデートされたという。小平次長も同様に、手応えを口にする。

「施設面では部屋と食事と風呂を中心に考える頭しかなかったですし、あとは接客サービスの質ばかりを考えていました。もちろんそれは悪いことではないでしょうが、新たなデバイスを使って何かを仕掛けてお客さんを呼んでくることには全く手を出したことがありませんでした。いい勉強になりましたし、観光資源はこう活用するんだな…ということにも気付けました」

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